イベントレポートある日の銀座十字屋
ホール主催イベント

第2回 クララの室内楽

 大作曲家シューマンの妻にして、極めて優秀なピアニストでもあったクララ・シューマンをモチーフに、女性作曲家・音楽家にスポットを当てる室内楽シリーズ第2弾が催された。ピアニスト・八十嶋洋子プレゼンツによる好評の催しだが、この会は本格的な演奏が至近距離で体感できることと、ワンテーマ・コンサートとして掲げられた御題に対する丁寧な掘り下げが成されている辺りが、人気の秘訣なのではないだろうか。

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 今回は、シューマンとクララの歌曲にスポットを当てたものとなった。「シューマンの声」を務めたのが、バリトンの小川哲生である。「結婚した男女なら誰にでもあった人生最高の時期」がハネムーン期にあることに、異論を挟む者はあるまい。とにかく、空気が桃色に見える。シューマンとクララも、新婚時代には怖いもの無しの桜花漫々な日々を送っていたに違いない。当然、作曲にも影響は如実に出る。どこか堅苦しいイメージのあるドイツ語の歌詞を、専門家である小川がバリトン・ヴォイスを駆使してリライブしてゆくが、曲想も情熱を秘めた熱いものが多いと感じた。創作のエネルギーとして、恋や愛の力とはこれほどまでに高揚感を産み出すものかと実感できた歌唱だった。ましてシューマン夫妻は、妻クララの父とシューマンが師弟関係にあり、師匠の娘と禁断の恋に落ちたという、ややこしい馴れ初めがある。父は終生娘の結婚を認めず、悪態をついた。恋は邪魔されればされるほど燃え上がる。出入り禁止にされ、演奏家として同じステージに立つことが逢瀬であった二人が、想いを音楽に乗せて伝えようとすれば、曲の内容が艶やかで輝くのは当然のこと。やっと結婚できた1840年という年は、生涯120曲以上の曲を作った「歌曲の年」となった。シューマンが遺した歌曲の大半は、この時期に作られたほどである。取り分け、今回のステージでも演奏された「詩人の恋」は、同時代の詩人ハイネの詩に音楽をつけた最も有名なシューマンの歌曲集であり、愛の芽生えから失恋までを網羅した一大恋愛絵巻のような連作だ。まるで、それに返礼するかのようなクララの「ロマンス」では、クララの化身・八十嶋の優美で的を射た解釈のピアノが際立った。

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 「好事魔多し」と云う。燃え上がる恋を歌曲へ昇華させ、大きな足跡を残したシューマンではあるが、当時はピアニストとしての名声でクララのほうが勝っていた。16年におよぶ夫婦生活で8人の子宝に恵まれ、仲睦まじいかった2人だが、世間的には格差婚とみられていたようだ。増える子供に家計を案じたクララは、演奏旅行を復活させる。シューマンも精力的に作曲に勤しむものの、作曲の評価はそんな早くには訪れない。まるでクララのヒモ扱いに屈辱を覚えたシューマンは、次第に精神を病み、投身自殺を図るまでとなる。そして療養所で混迷のまま死が2人を別つのである。つまり、今回のテーマは、シリーズ中でも才能が横溢していた頃の2人を捉えた極めて重要な回だったし、その関心の多さからか前回を上回る入りだった。次回は、シューマン夫妻と深く関係してくるブラームスがテーマになるという。ソープ・オペラを観るようなシリーズの流れに、今から期待の高まりが止まらない。