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Vol.1 ハープより愛をこめて / サーシャ・ボルダチョフ

銀座十字屋で取り扱うCDの中から、スタッフが実際に聴いてみて、みなさまにおすすめしたいCDをレビュー形式でご紹介します。CDレビューの一覧はこちら
 

 

ハープより愛をこめて / サーシャ・ボルダチョフ

超絶技巧で知られるサーシャだが、その本質は実のところ「歌心」にあるのではないだろうか。最新作「ハープより愛をこめて」は、楽旅が多く、少年時代から音楽留学という形で長らく故郷を離れていたということもあって、サーシャのロシア愛がたっぷり注ぎ込まれたアルバムとなっている。今までどうちらかといえば、交響楽のアレンジや、あえて難しい作品にチャレンジした“名刺代わり”のダイナミックなアルバムが多かったのだが、最近故郷に戻り、ボリショイ・バレエの演奏に招待されたり、ロシア各地でコンサートを要請されたり、温かく自分を迎えてくれたロシアに改めて郷土愛を噛み締めている段階にあるのかもしれない。

アルバムは、ロシアが育んだ鳥・花・バレエ・絵画・ワルツという5つのモチーフを選び、それぞれ3つの曲を添えるという構成。たとえば、“ロシアの3羽の鳥”の部では、グリンカ「ひばり」、スロニンスキー「火の鳥」、アリャ―ビエフ「ナイチンゲール」が選ばれている。そこには、繊細かつ曲の旨味を技術の犠牲にはしないサーシャの心配りが随所に見て取れる。曲のセレクトがここまで民族色が強いと食傷気味になりそうだが、アルバム全体を俯瞰すると、知っている曲と聴いてみたら好きになる曲の配合のさじ加減が絶妙であり、まるで一気に読み進めてしまう短編小説集のような味わいがある。「意外とロシア好きかも・・・」という満足感もある。圧巻は、バレエの部。ラフマニノフやチャイコフスキーの中にある歌の心を引き出して、難解な技法を駆使しながら平気な顔して弾いてしまうサーシャの悪魔の顔が覗く。ボリショイ・バレエのダンサーと、オケピではなく同じステージ上で演奏できる栄誉を与えられているのは、現状ではサーシャと数人の演奏家しかいない。そうした誇りと身につけた自信とが相俟って、色々な意味で圧倒される場面が続く。最後は、ワルツ3曲。典雅な親しみ深いメロディに乗せられ、冒頭から最後まで、心を散々に揺さぶられロシアの旅は終わる。本作は、サーシャの本音が垣間見える、故郷と自分の音楽を愛してくれるファンへの熱きオープン・レターといえるだろう。

 


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