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Vol.2 亡き王女のためのパヴァーヌ~フランス・ハープ・リサイタル / マリア・グラーフ

銀座十字屋で取り扱うCDの中から、スタッフが実際に聴いてみて、みなさまにおすすめしたいCDをレビュー形式でご紹介します。CDレビューの一覧はこちら
 

 


亡き王女のためのパヴァーヌ~フランス・ハープ・リサイタル / マリア・グラーフ

集団の一部として機能してきた者が、個人の資質を明らかにする場合、最も有効的な方法が今までのイメージと正反対の自分を表すことだ。このアルバムは、まさにその粋が収められている。グラーフは、あのカラヤンが指揮棒を振っていた最盛期のベルリン・フィルで、ソロ・ハーピストであり続けたという事実は、彼女が軟なハープ奏者ではなく、基本がしっかり押さえられて、なおかつ柔軟さとマルチな表現力に支えられた一級の奏者であることを、何より雄弁に物語るが、そこからはドイツ音楽壇の特徴というか、ドイツの作曲家を愛し、バッハやベートーヴェンらを信奉するステレオ・タイプな姿も見え隠れする。本作の企画がユニークなのは、初のソロ作品集で、ドイツの第一線級の彼女に、敢えて真逆のフランスというテーマをぶつけたことにある。どこまでも優美で自由で。フランスの楽曲は、楽器の女王と呼ばれるハープにはうってつけであり、実際にクラシックと称されるハープ曲はフランス産が多い。

グラーフは、その垣根を彼女らしく乗り越えてみせた。女王がアウェーの状態の敵地で拍手喝采を浴びていると想像して戴きたい。それが本作の喩えに相応しいからだ。ルーセルの「即興曲」をフランス人よりも典雅に弾き、ドビュッシーの2つの「アラベスク」では作家の作法に盲目的に倣うのではなく、自分ならこうアプローチするという冴えも垣間見せる。タイユフェール、ラヴェル、トゥルニエ・・・一歩間違えると冗漫にさえなってしまう作家の曲想も、グラーフは一本筋が通った輪郭を浮かび上がらせ、冷静に奏でてゆく。温かな音色で高雅な演奏は、徹底して凛とした緊張を伴いながら、フランス楽曲たちを躍らせた。まさに、銘盤である。

 


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