2018/6/18

Vol.17 インプレッションズ

銀座十字屋で取り扱うCDの中から、スタッフが実際に聴いてみて、みなさまにおすすめしたいCDをレビュー形式でご紹介します。CDレビューの一覧はこちら

 

 

インプレッションズ / ヴェヴェルカ(Ob.)エングリホヴァー(Hp.)

12年の間コンサート活動を共にしてきて、初めて吹き込んだアルバムだという。各楽器の国内トップクラスの演者であり、その卓抜さは現在のチェコ楽壇のレベルを如実に示している。そして、「なぜ」というキーワードを起点に辿ってゆくことで全体像が見えてくる作品である。

まずオーボエとハープという組み合わせに驚かされる。同じ笛ならフルートのほうが良いと想いがちだが、一聴してみると、これが目から鱗のマッチングであり、なぜ今まで類型がなかったかと思えるくらいに溶け合っている。疑問が持ち上がった。ではなぜ、今まで試みられなかったのか。それは、繊細でそれぞれが個性を強く主張する楽器同士の競演は、驚くほどの色彩を帯びたサウンドである一方で、時として脆くも壊れやすく、本作のデュオほどの完成度を維持できなかったからではないだろうか。曲云々の前に、楽器の個性のぶつかり合いにおいて、調和そのものをキープすることが、これらの楽器同士の組み合わせでは極めて難しい。平たくいえば、チャレンジする力量を持ったデュオがいなかったというのが実情だろう。これは、オーボエの特性にも起因する。オーボエは息を少しずつ使い、長いメロディはひと息で吹けるが、これは息を止めた状態に似た時間を持続することに等しく、演奏中、肺に二酸化炭素が溜まってしまう。淀んだ空気を一気に吐き出して、また吸わなければならない。したがって他の管楽器奏者よりブレスに時間がかかる。この「息が余る」状態と、ハープの弦の振幅が大きい、たおやかな響きを長いタイムラグを調和させるのは、技術的のみならず体力的にも厳しいということだと思う。

そこで、二人は最近本格的な研究が方々で進みつつあるフランス近代を題材に選び、敢えて楽器の輪郭をはっきりさせることで、作曲者の意図を最大限に活かした。概ね5分前後で終始する曲は慎重に選び抜かれ、ハープの優雅さとオーボエの突き抜ける高音の映えをあからさまに並べた。これが絶妙な交わりとなり、余禄としてフランス現代の音楽家たちの遺した音楽の懐の深さを知ることになった。ドビュッシーの原初的な音楽の骨組みも素晴らしいが、個人的にはラヴェルの素晴らしさを再発見できたことが大きかった。だが、最も感銘を受けたのは、このアルバムのためにルボス・スルカ作曲の「プリマヴェーラ」である。大作家のそれと比肩しても、何ら遜色のない旋律は、少し憂いを帯びながらも、煌くような音色をデュオから引き出している。

本作は、オルリケ山脈麓の農村にある小さなコテージで録音された。空気は澄み、喧騒からは解き放たれ、楽器コンディションや演奏者の心理状態まで考慮され、周到な準備を重ね、12年たってやっと1枚のアルバムにまとめ上げられるに至った。見た目やこちらの想像以上に、時間のかかったプロジェクトなのであり、本作に転封された音の清らかさは、まさに山脈の懐でじっくり濾過された良質なミネラルウォーターの如し。ピュアネスを感じさせるアルバムである。


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