イベントレポートある日の銀座十字屋
ホール主催イベント

クララの室内楽

2015.4.26 十字屋ホール

 春は新しい何かが始まる季節だ。初々しいスタートもあれば、心期す決意のスタートもある。ピアニスト・八十嶋洋子は、3年余り 沈黙していた。おしどり夫婦と云われたが夫君を病で亡くし、そのショックから公の活動をセーブしていたようだった。そんな八十嶋が、万感の想いと決心をこめて本格的音楽活動を再始動した。それが「クララの室内楽」シリーズ全8回である。

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 八十嶋夫妻は、自分たちをかのロベルト&クララ・シューマンになぞらえていた。夫は親しみをこめて妻をクララと呼んだ。実際のシューマン家も音楽家一家で、大家族でよく家族演奏会も催したようだ。後にシューマンの死去により、クララは残された家族を支えるため必死で働いた。主婦業で忙しかっただろうが、元々クララは才能を買われる作曲家であり演奏家であった。友人のブラームスも協力したようだが、生きてゆくには並大抵の努力ではなかったことだろ う。そんなクララの生き様は、まさに八十嶋の心象風景の投影だった。たおやかに、健気に、与えられた運命に抗うことなく、女性としての一生を全うしたクラ ラ・シューマン。そんなクララの名を冠した室内楽のコンサート・シリーズは、八十嶋のライフワークでもあり、夫と共に築いたスタジオ・フリーデルを推進してゆくうえでの指針でもあるようだ。

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 シリーズ初回のテーマは、「シューマン家の音楽」。ロベルトとクララの手になる曲のみで占められ、それらを上野明子・通明姉弟、田原綾子といった 将来を嘱望される若者たちと共演するという形を採った。彼らはまさに八十嶋の“音楽上の子供たち“といってもよい存在であり、それがあたかもシューマンの 一家が目の前で演奏しているかのように錯覚するほど、それは実に微笑ましく、美しい光景だった。間隙を縫うように、音楽学者の西原稔氏が、シューマンはま だしも一般的には馴染みの薄いクララと一家の歴史を紐解き、音楽の解説を加えることで、ストーリーが立体的に浮かび上がり、一家の辿った歴史にシンパシー を寄せることができた。至近距離からの鑑賞、大きな会場では味わえない一体感など、室内楽の魅力をふんだんに盛り込んだコンサートは、長さを感じさせず3 時間近くに及んだ。満員札止めの会場にいた皆が、八十嶋洋子の復活を心待ちしていたのだ。

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 次回の開催は、今年の11月14日に予定されている。女性ならではの視点で、女性の音楽家にスポットを当ててゆくこの室内楽シリーズ。今後、十字屋ホールの呼び物企画になりそうだ。