イベントレポートある日の銀座十字屋
ホール主催イベント

フランスと日本〜虹の架け橋〜

 NYのアポロシアターで大評判を受けて、日本にも来日公演としてやってきた「リバーダンス」。早いもので、本格デビューからもう20年近く経つ。思えば、あのパフォーマンスの大ヒットがきっかけで、イギリスの古謡が見直され、古き佳き伝統に再びスポットが当てられたのだ。当初はなぜケルト音楽なのかという疑問を誰もが持ったようだが、素朴で柔らかく、でも乾いた音が奏でる「癒し」と統制がとれて凛としたダンスの融合が、人々へ純粋な感動を喚起するのだということを、「リバーダンス」は教えてくれた。その後、様々なメディアで浸透された結果、ケルト音楽の響きは今やけっして非日常なものではなくなり、シンプルで憂いを含んだ音楽は日本人たちの琴線にも響くものがあったようで、NHKの朝の連続TV小説「マッサン」等の影響もあってか、アイルランドの調べは多くの人々から愛好されている。
 それは、ハープの世界の潮流でも同じで、瑞々しいが重厚でまさに女王の風格に相応しいグランド・ハープに比べ、可憐で親しみの湧く“手の届くハープ”であるアイリッシュハープが最近人気だそうだ。アイルランドの音楽を奏でてきた代表的な楽器は、優しく、柔らかで、少し硬めの音が、シンプルなアイルランド歌謡によく似合う。無論、独奏でも映える楽器ではあるが、それがグループ表現されると格別のハーモニーとなって、新たな楽曲やアイデアが付加されることで、また新たな世界観が見えてくる。たとえば、数度の来日ですっかりお馴染みとなった人気アイリッシュハープ奏者のファビウス・コンスターブルも故郷イタリアでは大がかりなアイリッシュハープによるオーケストラを結成・活動中であるし、どうやらこの潮流は世界中に波及しつつあるようだ。

 最近活動を本格化させたのが、菊地恵子が中心になって結成されたレインボー・アイリッシュハープ・アンサンブルだろう。元々担い手は少ないが、本邦屈指のハープ奏者たちが、それこそ全員いると言っても過言ではないようなメンバーが、勢ぞろいして連弾する様は贅沢な面持ちすらある。今回の十字屋ホールにおけるコンサートは、渡仏して活躍しているハーピスト・菊地砂織の帰国に際し、母親である菊地恵子との親子共演が第一部、くだんのレインボー・アイリッシュ・アンサンブルの演奏が第二部という構成となった。

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 第一部は、日本のハーピストの粋を集めたというか、非常に高度な技術と決意ある音楽観がいかに高邁なものであるか、菊地親子が見せつけたものになった。親子ならではの「あ・うんの呼吸」の反応があったり、絶妙なハーモニーが生まれたりというわけでもない。無論、始まりは母の薫陶を子が受けてのことであったのだろうが、殊、音楽に関しては傍から見るとこの親子は切磋琢磨しているようで、甘えがない。しかも、母はアイリッシュ、娘はフランスに傾倒している。互いに専門性を持ったり、普段は離れて生活したりといった環境が、かえって遭いまみえた際に妥協を許さないのかもしれない。暫し聴き入る。瞬く間に50分過ぎてしまった・・・という感じ。濃密で聴き手に迎合しない曲のセレクトは、古謡からがほとんど。それでもすんなりと染み入ってくる調べとは、まさに魔性の紬ものなのだろう。

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 翻って第二部は、啓蒙がテーマかも知れない。演奏陣からは、「アイリッシュハープの素晴らしさを伝えたい」というパルスが、痛いほど伝わってくる。構成は常にメンバー6名が一緒に弾いているわけではなく、ソロあり連弾ありで、色々な表情を垣間見せることで、音色にシンパシーを植え付けさせているのだと感じた。「庭の千草」に代表されるような、“一度は耳にしたことのあるメロディー”の宝庫ともいえるアイルランド民謡たちが、恐らくこの楽器とこの編成で演奏されることが最も望ましいのだろうと思わせる演奏で、名著改題の作業が成されていく。温かく、リラックスさせる音色は、まるで懐に隠して胸中で愛でる秘密のオルゴールに感じるときめきを随所に放ってくる。ひと口にハープとは言っても、これほどに表現の振幅があるとは。今回は、ほんのさわりを開闢され、手触りと温もりを与えられた。アンサンブルのメンバーひとりひとりに個性があるし、このグループにはまだまだ先があり、“持ち歌”があり、見せていない手があるはず。これからもフォローしていきたいグループである。最後、このアンサンブルに菊地砂織が参加しての大団円。ピースが揃った七色のアイリッシュハープの音は、まさに虹色のごときだったと付け加えておく。