イベントレポートある日の銀座十字屋
ホール主催イベント

十字屋ホームカミング・コンサート 偉才たちの室内楽

 十字屋ホールが行ってきたイベントの中で、最も重要なエレメントのひとつに、「若手育成」という側面がある。実力のある者は、チャンスのきざはしを掴んで、自ら成長してゆくものだ。ところが、そのチャンスというのが、自助努力だけでは簡単に巡ってこない。昨今、レコードが売れない、手ごろなコンサート会場の絶対数が足りない等、才能だけでは名前は売れないという世間の風評は事実である。先ずは誰かが声を上げ、「こんな凄い才能がいますよ」と主張しないと、誰も耳目を欹てない。銀座のサロン風なスペース、とはいっても手作り感があり、室内楽という形でプレゼンテーションするにはちょうどいい百名規模の席数で、そもそも楽器店なので、音響や楽器などの鳴りと拘りは抜群にいいのが、十字屋ホールだった。しかも、チケット料金も高すぎるというわけではない。その割には大物や実力者、名はないが上質な演者が出演し続けてきた背景に、チャンス・メーカーとして投資してきた過去が、演者たちの帰巣本能に繋がっていた側面があると思う。

ホームカミング

 このコンサートに集まった若き英才たちが、その答えである。十字屋ホールは、30年ほど運営されてきたが、そのうちの20年の日本経済は「失われた20年」とも揶揄されるほど悪かった。それでも、今後世界へ羽ばたく実力ある若手クラシック奏者としてフィーチャーしていたのが、ハープの景山梨乃、ヴァイオリンの長尾春花、フルートの上野星矢、ヴィオラの中村翔太郎といった面々だった。現在は海外組もいれば、有名オーケストラに在籍する者、音楽界の重賞を獲った者もいる。そんな4人が一緒に集まって演奏するということ自体、奇跡に近くなっている旬の音楽家ばかりだ。なぜ十字屋ホールなのかと首を傾げると、なるほどその潜在能力を早くから認め、早く開花できるように場を提供してきた舞台裏があったことは想像に難くない。楽器店としての十字屋も、ハープ、フルート、オカリナ、ハンドベル、ウクレレといった、いささか地味とも思えるが、誰もがその独自の音色にほだされてしまう楽器の発展促進に注力していることからも、才能や奇特なものへの拘りに関しては確信犯であることはよく分かる。

 供されたのは、イベール、ドビュッシー、武満といった、どれもが一筋縄ではいかない楽曲ばかり。多忙の為、4人勢ぞろいして十分に合せる時間が少なかったであろうことは容易に想像できるが、出来はまさに絵に描いた様な「ザ・室内楽」だった。持てる力を互いの実力を知った者同士だからこそ最大限にぶつけられる迫真の演奏が、時間の密度を濃くし、海外での経験も多いせいか、良い意味で日本人離れした楽器の鳴りで会場を圧倒した。その生音の綺麗で艶やかなこと!それらを的確に響かせた十字屋ホールも、正に冥利と悦びに弾んだように思えた。