イベントレポートある日の銀座十字屋
ホール主催イベント

上野通明 ヴォンヴォヤージ・コンサート

 正式にドイツの名門デュッセルドルフ音楽大学に留学が決まった際、以前に上野が「クララの室内楽」に出演したときにその生音に触れ、彼のただならぬ才気に感じ入って、十字屋ホールがこの「留学、元気で行ってらっしゃいコンサート」をオファーしたのだという。その外見と楽器演奏のギャップが、耳目を引いたひとつの要素に違いない。今回は、中迫研のピアノとのデュオ演奏となった。
 
上野通明

 未だ少年の面影を残し、はにかむ笑顔も涼やかな上野が、ひとたびチェロを手繰ると、まるでベテラン奏者のような大人の音を出す。ワインに例えるならば、こちらはボージョレ―・ヌーヴォが出てくると思っていたら、ボルドーのフル・ボトルの年代物を供されたような感じだ。ブラームス国際コンクールでチェロ部門第1位という実績も、若き駿馬には十分な勲章だろう。バロックからロマン派まで。さすが、ドイツ留学を意識してのことか、選曲のセンスにも光るものをみせた。鬼気迫るような演奏・・・ではないのに、見た目には軽やかでスムーズな立ち居振る舞いで、難しいパッセージも流れるが如くだ。室内楽における低音部をカバーする楽器ながら、芯の通った艶やかな音を捻り出すのも、彼の特長のひとつなのだろう。天賦の才があることは間違いないところだ。ヴォンヴォヤージどころか、そのまま世界の片道切符を手にして、戻ってこないぐらい多忙になるかも知れない。

 願わくば、この逸材がそのまま素直に成長して、若くして妙に日本のチェロ斯界に重荷を背負わされるようなことがないよう、応援したい。なんでもチェロという楽器自体、本来カバーする音域からすれば、もっと大きくて然るべきだが、操作性を考慮していまのサイズに留まっている楽器だそうだ。そんなチェロの特徴までシンクロすることはないので、上野には常に等身大で伸びやかな演奏を期待したい。帰国が楽しみだ。