イベントレポートある日の銀座十字屋
ホール主催イベント

第25回 霜月音楽会

2015.11.10〜11.13

海野幹雄

 霜月音楽会は、十字屋ホールの誕生月を祝って挙行される看板シリーズだ。元々、欧州の王室・貴族の間でサロン音楽、つまり室内楽がたしなまれてきた歴史を、ここ銀座で実現するためにホールが誕生した背景がある。だが、銀座で一途に音楽を育んできた同ホールも今春で終わる。そこに一抹の寂しさを感じてしまう。

アザーブ

 初日は、チェロの若き牽引車・海野幹雄が登場。そして、話題の新垣隆の伴奏で、より高い技術に支えられた豊かな音楽表現に居合わせることができた。新垣と組んで随分になるが、チェロのための楽曲が元々少ないところにきて、新垣の作曲により音楽的な裾野が広がり、若干アヴァンギャルドな表現が増えたものの、両者が得難い補完型パートナー同士であることを強く印象付けた。翌日は、無名のカルテット・アザーブ。普段は教職にある者、楽団に在籍する者と多士済々だが、同窓生同士が集まったシルバー世代のベテラン集団であることが特筆される。積み重ねた時の流れが、いまも脈々と生きており、音楽を嬉々として演奏する姿には、むしろこちらがエールで背中を押されるような気がした。三日目は、ジェラール・プーレと川島余里の師弟コンビによるヴァイオリンとピアノのデュオだ。フランスの至宝といわれるマエストロは、この十字屋ホールには何度も出演してホールの品格を上げてきた。プーレ~川島のような大モノたちの出演があったから、ホールは上質な室内楽の場としての地位を確立した。簡単には咀嚼できない本物の響きは、彼の出演ごとに緊張が希釈され、ホールにおける出演最後の夜となったこの日は、マエストロの表情がいつもよりもフレンドリーになったように思えた。クラシックの本物を身近に届けてくれた彼らの功績は大きいものがある。最終日は、本田聖嗣~村田恵理子~柳瀬大輔による、クラシック音楽からアプローチでおくるミュージカル・レビューとなった。かつてはオペラがその位置にいたが、今日の世の中では映画やミュージカルの舞台などが、クラシック系音楽の汎用性に寄与している。今やクラシック音楽とミュージカルは、互いを引力圏に置く不可分な相関関係にある。普段は、演奏家・プロデューサーとして活躍する本田も、クラシックのラジオ番組でDJを務めている。軽妙洒脱な語りとピアノは、自虐的には「クラシック漫談」らしいが、とにかく面白エピソード満載で、ちょっと早口で捲し立てる語り口で我々も彼らのステージへグイグイ引き込まれてしまう。また、柳瀬~村田のバリトンとソプラノは、さすが劇団四季出身者だけあって、朗々とよく通る声で、「サウンド・オブ・ミュージック」「キャッツ」など、ミュージカルのヒット曲数え唄を詠唱してみせた。上質の音楽エンタテインメントを観るようで、音楽の楽しみ方の奥行を感じさせてくれたショーケースとなった。

ジェラール・プーレ

 出演した4組は、クラシックが基礎とはいえ、全く違った音楽をやっているが、この音楽会の枠組みに相応しい演奏を展開してくれた。十字屋ホール開闢の精神、まさにここにありと思えた。室内楽の喜びを市井へ。至近距離で本当の音楽のあるべき姿を味わう。大きなコンサート・ホールで交響楽を聴くのも音楽ならば、ごく少数の同好の士と演奏を愛でるのも音楽である。霜月音楽会は、そんな音楽のオアシスのような場であったのだなと感慨に耽った。

クラシック・ラヴズ・ミュージカル