イベントレポートある日の銀座十字屋
ホール主催イベント

第3回 クララの室内楽

 クララの室内楽が、3回目にしてもはや恒例となったのは、たぶん運営姿勢に拠るところが大きい。ロマン派の巨匠シューマンが、ピアニストとして有能であった妻クララと過ごした年月と、本会の主宰である八十嶋洋子が亡夫と過ごした歳月を重ねわせ、家族と音楽を大切にしたクララの化身として、音楽を通じた愛の素晴らしさを問うシリーズが、この「クララの室内楽」だ。手作りのコンサートであり、真面目で実直なアプローチが客席にも伝わってくるのが特長で、一般の音楽史をなぞるのではなく、大作曲家の妻という視点や夫婦を取り巻く人間関係から、曲が出来た背景などが浮かび上がってくるのも、まるで大河ドラマか、ソープ・オペラを観るかのような展開で面白い。

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 今回は、シューマン家とは浅からぬ縁で繋がった音楽家ブラームスの人生が紐解かれた。史実では、ベートーヴェンの崇拝者にして後継者と目されがちだが、バッハなどの古典主義の影響もあって、新たな才能であることを、実はシューマンが喧伝したことで知名度が増した。無論、シューマンの妻クララとも交流し、その友情は終生続いたが、気難しく皮肉屋な面もあったブラームスが終生交友したので、特別な恋愛感情があったのではとされている。もっとも年齢はクララが14歳も上で、さらに恩人の妻ということで、敬愛の範疇を超えなかったものと見做されている。だが、今回クララがブラームスへ捧げたという「ロマンス ロ短調」の演奏などを聴いていると、それもどうも怪しい。コンサートは、音楽学者の西原稔氏の解説によって進行してゆくが、とにかく湯水の如く言葉が湧いてきて、まるでさっきシューマン一家とブラームスに会って話を聞いてきたように喋るものだから、演奏を聴きながらイマジネーションがいつもより膨らんでしまう。とはいえ、一応コンサートなのだから曲を聴いていたいし、西原氏の話は面白いので、別途講演の企画でもあったら良かった。ともあれ、本に載っている歴史の二次元的な復元ではなく、こうした立体的に当時の雰囲気を再現してゆくようなアプローチを、手抜きなしに時間をかけてプレゼンテーションしてくるので、毎回密度が濃い内容になるわけだ。また、八十嶋本人の熱演が伝播して、ゲストの演奏にも力が入るのも大きな特徴で、今回のゲストだった漆原啓子のヴァイオリンも一段と冴えわたった印象があった。

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 休憩時間に、エジソンが発明したロウ管録音によるブラームス本人のピアノ演奏録音が場内に流れたが、こうした粋な演出があるのも嬉しい。シリーズ8回が予定されるなか、3回で十字屋ホールでの開催は終了してしまったが、回を追うごとに充実をみるコンサートなので、ぜひ次回も別会場にはなるが足を運んでみてほしい。

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