イベントレポートある日の銀座十字屋
ホール主催イベント

有馬律子 ブリリアント・コンサート

 武者修行という言葉はもはや死語なのか、昨今は欧米への日本人留学生の数が激減し、海外へ自ら腕試しに渡航する者も絶対数が減っているという。先行き不安な世情で、夢より現実をみるほうが先・・・ということなのだろうか、要するに「自己投資」する若者が少なくなってきているのだろう。それは、コンクールやコンペティションへの応募にも顕著で、分野を問わず日本のパイは減っており、その代わりに東南アジア勢が健闘を見せているらしい。ハープの世界も同様の有様なようだ。そんな中、第27回日本ハープコンクールのプロフェッショナル部門で1位という栄誉を勝ち取った有馬律子のコンサートが開催された。

有馬律子1

 演奏家には様々なタイプがある。さすがにプロのレベルともなると、個性の突出をもって他との違いを色づけするものだが、有馬律子の音色からは不思議と奇を衒うような作為は見いだせず、むしろ素直に練習と薫陶の成果がそのまま表れたようなピュアネスを感じた。癖のない楷書の芸ともいえる。爽やかさの源泉とは、雑味の無い個性であるのかもしれない。期せずして、ちょうど3週間くらい前に桑原千弦が同じ十字屋ホールで初リサイタルを行い、有馬同様、大好評を博した。その時のプログラムにも、フランスの作曲家が多く取り上げられていたが、今回の有馬もそうだった。ところが演奏の質感は、まるで正反対のようだった。そのどちらが良いとかいうことではなく、そこに次世代の萌芽をみた想いがした。桑原は、一度曲を咀嚼して体内へ取り込んで、思い入れと感情をこめた情念の演奏をする。有馬は、曲の想いを汲んだ忠実な再現を試みる過程で、細かいニュアンスや的確な演奏力を発揮する。前者は会場と一体になった際に想いを共鳴し易く、後者は明瞭な解釈と表現が曲を介して会場の共感を得易い。どちらも未だ熟していないとはいえ、明らかに個性である。同世代に違った個性が同分野へ多く輩出するというのは、活性化には大きな原動力となる。研鑽の上、コンクールを1位突破し、現在チェコで武者修行を重ねる有馬は、今後間違いなく日本のハープ界をドライブさせる一人である。この日も演奏のそこかしこに、将来性の片鱗を見せつけていた。

有馬律子2

 また、この日が十字屋ホールの主催する最後のコンサートだった。施設の終幕が、にぎにぎしいガラ・コンサートではなく、ハープの新鋭、しかもソロ演奏で終えたところに、進取の気象を追い求めてきた、いかにも十字屋らしいアプローチが窺えた。