イベントレポートある日の銀座十字屋
ホール主催イベント

藤井泰子 イン・トーキョー

2015.5.24 十字屋ホール
 インターネットの発達や電信デバイスの発達などで、時間や言語、そして国境などの障壁が小さくなり、情報の行き交いがこのところ以前とは大きく様変わりしているが、藤井泰子のような存在をみると、改めて世界が等身大になってきたと実感する。

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 イタリア在住のソプラノ歌手で、福山の出身。以前、芸術家は人・物・金が集中する東京を目指して精進したものだ。だが、情報社会では能力や知恵のある者なら、今や必ずしも東京が目的地ではなく、むしろ中継地点として世界へダイレクトに羽ばたいてしまう。藤井泰子も、さしずめ本場イタリアへ直接オペラの修行に行ってしまったクチで、その努力やパーソナリティも認められて、かの地ではTV出演や数多くのコンクール入賞などから、むしろ日本よりも知名度が高い。イタリア語はダイアレクトも強く、その訛りの差異を表現するのは難しい。しかもオペラの本場で認められているということは、藤井のコスモポリタンぶりを大いに窺い知ることができる。コンサート・タイトルのイン・トーキョーとは、イタリアン・オペラのディーヴァが日本に逆輸入された意味合いを端的に表現しており、初の東京・銀座におけるコンサートにおいても、“新人離れ”した藤井の歌唱に自然と期待がかかってしまう。

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 内容は、圧巻の一言だった。「カルメン」のハバネラ、「椿姫」のプロヴァンスの海と陸。このスレンダーな藤井の体躯のどこに情熱ヴォイスが眠っているのか。名刺代わりの一声は、看板に偽りなしと納得させるには十分な美しさと強靭さがあった。そして、オペラのイロハとして、音楽劇である以上、歌い手は歌うだけではなく演技も必要とされるのだということを、ここで改めて思い起こされた。日本でも有数の演技派バリトン歌手でもあるゲストの村田孝高との「お嬢さんお手をどうぞ」が良い例で、そこには照れや気負いがなく、二人はごく自然にドン・ジョヴァンニの世界観を演じきり、日本人のバタ臭さを感じることもなく、ここが銀座であることも忘れさせ、会場を幸せな空気に包んでいた。また、ナビゲーターを務めた漫画家で自身もソプラノ歌手でもある池田理代子の解説&コメントが軽妙洒脱で、実に分かり易いオペラショーを形成していた。蓋をあけてみたら、良質で熱のあるステージであった。

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 今回、藤井は意外な選曲をしてきた。ガーシュインの「アイ・ガット・リズム」を準備していた。ジャズとは虚を突かれたが、意外にこれが良かった。オペラは高尚な響きを伴うが、要するにミュージカルでもある。つまり、演技の要素もある。イタリアにいながら、色々な音楽・劇を吸収しているようで頼もしい反面、今度はもっとオペレッタとかミュージカル・ナンバーも聴いてみたいなという衝動に駆られた。序章にしては、盛りだくさんのトーキョー・デビューであった。

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