2018/6/7

Vol.14  ハーピスト / カトリン・フィンチ

銀座十字屋で取り扱うCDの中から、スタッフが実際に聴いてみて、みなさまにおすすめしたいCDをレビュー形式でご紹介します。CDレビューの一覧はこちら

ハーピスト / カトリン・フィンチ

美味い寿司屋を見分けるには、光りもの、マグロ赤身、玉子で見抜けと教わった。コハダは魚の大小・季節によって塩の加減が異なり、安定感を出すのが難しい。マグロは職人の目利きと仕入れが全て。オヤジに信頼がなければ、よい赤身は回してくれないらしい。玉子は、単純に手間と時間がかかる。つまり、職人のごまかしが利かない部分への着目が、見極めには重要だということなのだろう。音楽では、バッハかも知れない。無駄がない。シンプルながら完成している。微動だにしない音楽観は、入り易いがその中身は恐ろしく深い。ざっかけなく言えば、その人の実力以上にはけっして響かない音楽であるといえる。

カトリン・フィンチは、今や英国総代といってもいい。あのチャールス皇太子の公式ハープ奏者になった。その実力を認められてのことだろうが、そのものズバリのタイトル「ハーピスト」を臆面もなく看板に掲げてきた本作で、フィンチの実力がわかる。冒頭2曲いきなりのバッハである。オープナーにはもってこいの「プレリュード無伴奏パルティ―タ第3番より」における、この音の跳ね方と煌びやかさはどうだ。突出しを飛ばして、いきなり付け台に本日のお奨めを並べられたようなものだ。「どうでぃ」と啖呵を切るが如くの潔さ。フィンチが鉄火肌か否かはこの際知る由もないが、「巧いなあ」とため息が出てしまう。続くは旬のドビュッシーだが、「月の光」をハーモニックスで爪弾いて小細工も利くことを証明する。全体の選曲は、こちらが聴きたい曲というよりは、ハーピストからすると「自分も弾きたいけれども尚努力を要す」的なセレクトで、少し斜め上を往くのだが、いかんせん、演奏も構成もまとまりすぎていて突っ込めない。ひとしきり唸った上で、後半あたりで供されるのが「スペイン舞曲第1番」と「モルダウ」。白眉。ハープの鳴りも見事。いずれも哀愁ギトギトのマイナー調が大好きな日本人好みの選曲といえるだろう。口中ですっと溶ける脂のように、後味もさわやか。最近、男性ハーピストもこうした畳み掛けるパターンが多いが、その力技ゆえのリバーヴが少々くどさを感じてしまうが、この頃合いは丁度いい。最後は、御口直しのかんぴょう巻ならぬ、「チキン・ピッキン・ラグ」。ペロっと舌を出しながら、ラグタイムジャズを持ってくるとは、なかなかお茶目である。このハープによるお任せフルコース、すっかり気に入ってしまった。贔屓にしようと思っている。御馳走さま。


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