2018/6/7

Vol.16  ドーヴァー海峡の向こう側 ~アイルランド・スコットランド・イングランドのバロック音楽~

銀座十字屋で取り扱うCDの中から、スタッフが実際に聴いてみて、みなさまにおすすめしたいCDをレビュー形式でご紹介します。CDレビューの一覧はこちら

 

 

ドーヴァー海峡の向こう側 ~アイルランド・スコットランド・イングランドのバロック音楽~

何とも歴史ロマンに溢れる企画というか、ぜひNHKにルポをお願いしたいような着眼点であります。時は17、18世紀にヨーロッパ大陸ではバロック音楽が隆盛を極めていた。当然、その音楽もドーヴァー海峡をわたり、アイルランドへ伝播した。当時、バロック期のオペラの旗手としてヘンリー・パーセルがいて、アイルランドには盲目の吟遊詩人ターロック・オキャロランがいた。やがて大陸では流行が廃れたが、アイルランドでは土着化しガラパゴス化した。ただし、アイリッシュでは楽譜を使わない口伝の伝統音楽として、演奏家や農夫の間で途切れることなく伝えられ、独自のバロック音楽となった。パーセルとオキャロランが接触した記録はない。しかし、それぞれの地で最も高名かつ人気に支えられた音楽と音楽家が同じ時代の空気を吸い、民間の力によって音楽を伝播し合っていたという事実だけが残っている。ならば、バロック音楽の伝統が残るアイルランド音楽の専門家とイタリア・バロックの専門家を共演させ、生まれた新しいバロック音楽の形を提起してしまおうという企画が、このCDの妙味だ。

驚いた。このプロジェクトをこのまま映像化したら、サウンドトラック盤として使用できる。「ロード・オブ・ザ・リング」がお好きな方なら、この音楽は結構ツボにはまるはず。イタリアのバロック音楽とアイルランド音楽を織り交ぜた選曲は、意外にも素朴で耳なじみがあり、新しくて懐かしい。アイリッシュ側は、守安功(フルート、リコーダー)と守安雅子(アイリッシュハープ、コンサーティーナ、バゥロン)が、バロック側は平井み帆(チェンバロ)が、それぞれの分野の専門家として対峙する。もっとも対峙と書いたが、むしろ邂逅に近く、出会った当人たちもこれほど音楽的相性がよいとは想像していなかったのではないだろうか。口承芸術であるからこそ記録がなく、記録がないからこそイマジネーションをフルに活用できる。アイリッシュ/ケルト音楽の懐の深さを活かし、ある時はそれを逆手にとりながら、チェンバロの響きが横串をズブズブ刺してゆく、この愉悦。この味は癖になりそうだ。今すぐウォークマンにこのCD入れて、ディズニーシーに浮かぶ帆船ルネサンス号の上でロマンに浸りたい。ちなみに、こういう越境してゆくアイルランド音楽は、最近でいえばザ・チーフタンズが頑張っている。「グレイテスト・ヒストリー/ザ・チーフタンズ」では、世界の一線級のポップスターらとチーフタンズが共演し、現代アイリッシュの粋を伝えている。時代や演奏体系は異なってもこれら2枚のCDは、アイリッシュの深淵を覗くには格好の作品となっている。ぜひ、一聴をお奨めしたい。


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