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【レポート】エレクトリックハープDELTA×ティコムーン

 エレクトリック・レバーハープのデルタは、本邦ではサーシャ・ボルダチョフがストラップで肩からぶら下げて、ギターのような構えで来日演奏したのが初だった。そして、Sanaeがサーシャ同様、王道を追走し始めた。今回、試奏のオファーがあったのが、ティコムーンの吉野友加からだったので驚いた。「何かの間違いでは?」とスタッフの誰もが思った。アコースティックなサウンド・ハーモニーで鳴るティコムーン。しかも、ウォームなイメージの吉野友加が、漆黒のデルタをストラップで吊って弾いちゃう?イメージは、まさに180°真逆なわけだが、使用イメージを聞いて納得した。そればかりか、「なるほどデルタには、そういう使用法もあるな」と目から鱗の発見もあった。

 なぜ、デルタだったのか。それはアコースティック・デュオの抱える悩みに端を発していた。ギター担当の影山敏彦は云う。
「今回、7人編成バンドの中にデュオが招かれたのです。2人はいつも生音に近いのでグースネックのコンデンサーマイクを使っているのですが、ベースやドラム入りの演奏になると、下から回ってくる音が多く、干渉してハウリングしてしまうので、音もあまり上げられないし、自分の音が聴こえないのです。そこでデルタの噂を聞き、試してみようということになった。リハーサルで聴いた音がものすごくクリアで、メロディやオブリガードもきちんと聴こえて来てびっくりしたのです。今までは、バンドの中ではグリッサンドしか聴こえてこないことも多々ありました(笑)」。
なるほど。すべてが固定概念だったわけですね。デルタ→エレクトリック→ストラップがロックっぽいと、われわれが勝手に思い込んでいたのだ。吉野はデルタを縦に立たせて、ストラップを腰の方に回してハーネスのような形で使いこなしていた。これは、最近発売された専用スタンドを使えば問題はかなり軽減するだろう。今回は、立てるとトップが少々重たいので、バランスをとるためストラップも腰に回す変形使用を試みた。結果は上々。プラグインできるということは、音響マンもコントロールしやすい。便利な機能は、プリアンプのミュート・スイッチ。ハープはステージに置いておくだけでも、弦の共鳴によるノイズが出てしまう。デルタでは、それが完全にシャットアウトされる。チューニングも楽だ。やはり、鳴り物入りの実力は半端ではなかったのだ。「バンド演奏の中へ入ったときは、今後アンサンブルの入り方が変わってゆくだろう」と回想してくれた。


2018年5月26日に開催された空気公団 『Anthology Live Final【1997~2017】』
に出演したティコムーン。ライブではDELTAを使用

 では、普段デュオで演奏している2人の今後の音楽にはどう影響しそうなのか。「運ぶのとセッティングが楽になりますね!(笑)」
と、即答が返ってきた。ついクスっと笑ってしまう話だが、実は切実な問題だ。ツアーは車での移動が主だが飛行機や新幹線などは、楽器用で3席分用意しなければならない。会場に着いたら、ハープの生音のバランス調整に四苦八苦する。そういうストレスから解放されるだけで、かなり精神衛生上好ましいし、目から鱗だったのが、「サイレント・ハープとして使える」「ハープでデモ音源を作るには最適」という意見。ステージ用途を期して作られたエレクトリック・レバーハープだが、確かにプラグインすれば、日本の住宅事情に適う練習用ハープとしての用途もあるし、重ね録りも可能、もちろんエフェクターの使用も可なので、ちょっとしたデモテープならすぐにできてしまう。一見、デルタからは一番遠い位置付けにありそうなティコムーンだからこそ、あらぬところでデルタ効能をより体感できたのではないだろうか。音楽性は不変だろうが、いつかデルタが2人のサウンドに変化をもたらす日が来るかも知れない。


 

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