2019/4/17

【CD視聴レビュー vol.21】やさしいとき/八島由利子


やさしいとき/八島由利子

写真のアルバムがそうであるように、音楽のアルバムもまたその人の軌跡を追った記録集である。無論、アルバムだけを聴いてその人の人生のすべてが判るわけではない。しかし、その人生が豊潤であったか、取るに足らないものであるかは、ある程度透かし見ることができる。

本作「やさしいとき」は八島由利子の2枚目のCDで、実は初CDも同じタイトルだ。アイリッシュハープに時折、居城麻理衣のフルートが彩を添えている。タイトルが物語るように、本作は優美でたおやかな瞬間がずっと続く。足どりを踏み固めて一歩一歩進んでゆくような時間が、ゆったりと何の衒(てら)いもなく流れてゆく。音のすべては地に足がついており、演奏のブレが一切ない。書道でいえば、書き直しのない初筆の書が続く感じといえばよいだろうか。そこには、確信があり、自信があり、琢磨した試練を過ぎ越してきた者だけがもつ平常がある。

 辿った軌跡と言ったのは、アイリッシュの選曲を聴くとよく分かるが、原曲をそのままトレースしたのではなく、節や溜めが八島の手練れになっており、いかにハープを通じて「やさしいとき」を多く過ごしてきたかというストーリーが見えてくるところが、まさにアルバムからの息吹として浸透してくるからなのだ。本来はセピア色をした“いつかどこかで聴いた懐かしい唄”の楽曲集が、演奏が始まると曲がそれぞれのカラーを主張して歌いだす。昨日今日の業(わざ)では出せない、シンプルだからこそ深いアイリッシュハープの味わいの妙がそこにある。

 図らずも、彼女の師であるヨセフ・モルナール氏が天寿をまっとうされた同年月に本作の収録が終わったという。師への恩返しと言えるだろう。師と歩んだ年月は、その八島のハープ人生そのものであったのだろうが、このアルバムは八島のこれからも重ねてゆく通過点のひとつに過ぎないと信じたい。<CDの詳細・お求めはコチラ

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